たとえば、真の権利者はAであるが勝手に虚偽表示者BがA所有の所有権移転登記をしてしまい、それをもとに第三者のCに転売したとする。なお、AはBの行為を黙認しており、Cは善意だとする。
この事例において通謀虚偽表示は成立しない。なぜなら、通謀がないためである。よって、94条2項が適用できないため、善意の第三者Cの保護(動的安全、取引の安全)がはかれないという問題が生じる。
そこで、判例は権利外観法理を用いて、94条2項を類推解釈をした。類推解釈は法定のない状況で、似ている状況における条文を用いてする法的手法である。通謀がないので厳密には通謀虚偽表示の条文は直接的には使えないが、状況が似ているため、類推して適用するということである。
類推解釈をする場合、法定されていないため、効果のための要件を裁判所が定義づけることになるわけだが、権利外観法理の成立につき
①虚偽の外観
②真の権利者の帰責性
③善意の第三者の信頼保護
を定めている。よって先述のケースでは、
①Bの虚偽表示の作出
②Aの黙認
③善意のCの取引の安全、のため、権利外観法理が成立する。
したがって、この場合はCの法益が保護される。
次の場合も考察していく。
真の権利者A自らが勝手にA所有の不動産をBに所有権移転登記をした。Bはそれをいいこたに善意のCに転売した。
権利外観法理による類推適用できるか考えると
①通謀はないがAによる虚偽の外観あり
②真の権利者自らが虚偽の外観を積極的に作出しているため帰責できる
③Cは善意であり、取引の安全がはかられるべきである。
よって、94条2項の類推適用により、Cの法益が保護される。
次からケースは応用編となる。
AがBから不動産を購入するためにその予約をして、仮登記することを了承した。その後、Bは仮登記を勝手に本登記にして、善意の第三者のCに転売した。
これについて考察すると、
①Bが勝手に仮登記を本登記にしたことが虚偽②仮登記を承諾したA
③善意である。
この場合は真の権利者が積極的に虚偽の外観を作出したわけでも、虚偽表意を黙認したわけでもなく、帰責性は強くはない。ただ無権代理につき、権限ゆ越の表見代理に状況が似ていなくはない。Bは仮登記の権限を超えて本登記にまでやってしまったわけでわけだ。
ちなみに、無権代理も本人は曲がりなりにも代理権を授与したことを帰責事由として、外観を信じて取引に入った善意無過失第三者を保護している。帰責性が低くとも多少はあるわけで、善意無過失というより厳格な要件を満たす第三者の取引の安全を保護している。
本事例も権利外観法理における94条2項の類推適用だけでなく、110条権限外の表見代理の「法意」を理由に上記2つの併せ技で、善意無過失の第三者の保護を図っている。逆に言えば第三者が善意であるだけでは、今回の真の権利者の帰責性では保護されないのである。
さらに最後のケース。
AはBに不動産管理を任せていたが、Bに請われて印鑑や証明書などの重要書類をBに渡した。Bはそれを用いて虚偽の登記をつくりあげ、Cに転売した。
この場合も
①虚偽の外観あり
②弱いが、AがBに書類を渡した落ち度あり
なので、権利外観法理による94条の類推適用と110条の「類推適用」で③善意無過失であればCは保護される。